行政書士を目指すあなたへ

本講演は平成13年と平成15年に北九州市の九州国際大学で行政書士志望の学生の皆さんを相手に講演した時のまとめです。現在でも通用する事が多いですので、参考までに掲げました。
但し、内容につきましては、予告なしに改定いたします。受験勉強等の励みになれば、と思います。                  

平成20年6月1日


1. 本日の配布資料は5種類です

(1) 行政書士の業務案内
(2) 大橋昭仁行政書士事務所のチラシ
(3) 西日本新聞記事のコピー
(4) 平成13年度行政書士試験案内
(5) 平成13年度行政書士本試験問題

2. 行政書士試験の受験要領について
3. 行政書士の仕事とはどういうものでしょうか
4. お配りしました資料を元にお話します。まず、行政書士の業務案内です。

(1) 権利義務事実証明とは
法律の科目で言えば、主として民法の規定に関することです。
例えば、「内容証明文」とありますが、「内容証明郵便」のことです。相手方にこの内容の郵便物をしっかりと届けたいと思うときに利用します。もっとも、私どもが業務で扱う内容証明郵便というのは、当然ですが、法律的内容を持つもの、即ち何らかの法律上の効果を発生させることを目的としたものです。例えば、消費者金融から再三支払の請求を受けている人が、5年の商法上の消滅時効を引用して、以後支払いの意思の無いことをはっきりと示す場合に利用することなどです。

(2) 公正証書とは
公証人が作成する文書のことですが、公証人は公証人法によって認められている特殊な地位の公務員です。ここで作成してもらった文書には、いわゆる公証力というものがありまして、それを事実ではない、と、ひっくりかえすのはなかなか難しいという特徴があります。例えば、公正証書遺言というのは、多くの場合、公証人役場に行って公証人の面前で遺言者が自分の意思で公証人に遺言の内容を話して、公証人に直接作成してもらう遺言書ですが、後々、それが争いになった時に(もちろん遺言者が亡くなった後ですが)、それが事実ではない、と争うことはなかなか出来ません。

(3) 遺言・相続手続について
遺言書を作ったりあるいは相続手続きをするすなわちここで言う相続手続きというのは、例えば遺産分割協議書を作成したりすることです。遺産分割協議書というのはいわゆる法定相続分つまり法律に書いてある通りの遺産の分け方とは違った分け方をする場合、相続人同士で話し合ってこういう風に遺産を分割しましょう、と決める文書です。その様なものを作成するのは専門的な知識が必要ですので、素人同士でやることは危険です。
行政書士の場合は「権利義務または事実証明に関する文書」の作成として、行政書士法に明確に認められております(行政書士法1条の2)。
また各種契約書、これも同じく「権利義務または事実証明に関する文書」として作成が認められております。即ち売買契約書とか各種の契約書、色々あります。次に、

(4) 営業申請を考えているあなたへ
という項目がありますが、営業申請は許可をとるにせよ、登録にせよ、官公庁に書類を提出して行いますので、行政書士法では1条の2に認められております。
一般に行政書士の業務としてはこれがよく例に出されます。例えば、そこに書いてありますように、風俗営業の許可申請ですね。例えばマージャンやさんをやろうと思えば、マージャンやは無許可ではできません。警察に届出を出すことになっておりますが、当然の事ながら一定の書類が必要です。そういったものを作成するのが私達行政書士の仕事です。

(5) 建設業の許可申請を考えているあなたへ
これは今の営業申請と同じ様に、建設業の場合には、福岡県では県庁ということになりますが、県庁(実際は土木事務所)の窓口に書類を提出することになります。建設業も、ご存知の様に無許可では出来ません。必ず一定の書類を作って県庁の窓口に出す必要があります。しかも5年おきに更新ですから、5年おきに再度書類を提出しなおす必要があります。そこに書いてありますように、建設業関係は大変裾野が広いですから、建設業関係だけでも色々と種類がございます。行政書士の業務としましては最も広い領域だと思います。

(6) 会社法人設立を考えているあなたへ
会社の設立というのは司法書士さんの仕事ではないのか、と思っている方も多いのではないかと思います。確かに司法書士さんも一生懸命やっておられます。ただ、現在の法律では、本来は司法書士さんができるのは、会社設立の場合の最後の登記申請です。会社は登記が成立要件ですから必ず登記する必要がありますけれども、その登記申請書を作成するのが司法書士さんの仕事です。それ以外にもいろんな書類を作る必要があります。そこに書いてありますように、定款の認証というのもございますが、そういったものを付属書類といいますが、登記申請書を作るに当たっての前段階の手続きは、実は行政書士の仕事なんです。従いまして、行政書士の仕事の領域としてかなり大きな比重を占めております。次に、

(7) パスポート・国際結婚などでお困りの外国人のあなたへ
というのがございます。そこに国際業務と書いてありますが正確な記述ではないので申し訳ないんですが、一番最後に書いてあります帰化申請というのは、これは国際業務というより国内業務ですね。すなわち、日本に住んでいる人が日本の国籍を取得するという手続きですから、いわゆる入管関係とは関係ありません。役所で言うならば、外国人在留申請というのは、入国管理事務所の管轄ですけれども、帰化申請等は法務局が申請窓口になります。
国際化時代の現在では、この業務が随分多くなりまして、これを専門にしている行政書士が福岡県でもおそらく40~50人はいるのではないでしょうか。ちなみに行政書士は福岡県では900人ですから、結構大きな比重だと思います。その次に、

(8) 公的機関へ申請を考えているあなたへ
とありますけれども、そこに書いてある通りなんですが、少し不明瞭ですのでここは飛ばしておきます。次に、

(9) 車関係の申請等でお困りのあなたへ
とございますけれども、自動車登録と私達は呼んでおりますが、車の移転登録等は大変多いですので業務の量としては膨大なものがあります。
これを専門でやっておる人は随分多いんですね。私も時々やっておりますけれども、1件あたりの単価は大変安いですけれども量が多いですので、これを専門にやってる人は、どちらかというと行政書士の中では経済的には恵まれている部類に入ると思います。

(10) 畑や田に新築などを考えているあなたへ
農地転用ですね。田や畑だったものを宅地にしたいと言うときには、農地委員会に届出が必要です。そういった仕事をやっている行政書士も沢山おります。あと、

(11) 福岡県の場合
には、例えば、著作権法、本を書いたりした場合の著作権に関する取扱いをやってる方もおりますし、実用新案ですね、ちょっとした発明をした場合にそれを手続きするにはどうしたらいいかという相談を受けてやっている人もおられます。この辺も面白いのではないかと思います。次に、

(12) 私が手がけた仕事といたしまして
私のチラシ、大橋昭仁行政書士事務所というのをご覧ください。
そこに書いてございますが、建設業許可申請というのは今申し上げたところで、行政書士としてはポピュラーな部類に入ります。
医薬品健康食品等の許可申請、これ以外に例えば医療器具ですね、体にいい機械、健康に資する機械の許可申請というのも結構煩わしいですけれどもやったことはございます。
あと、契約書作成、マンション規約作成もやっております。
支払督促というのは、原稿を作成するお手伝いということですね。
遺言相続手続きとございます。遺言に関しましてはまた述べさせて頂きます。
最後に公的資金の融資手続き代行とございますが、これは例えば、今話題になっております国民金融公庫ですね、国民生活金融公庫と現在呼んでおりますけれども、そこへの融資の窓口になったり致します。公的資金の融資を受けたいけれども手続きが分からない、分かっているけれども自分ではなかなか時間が無いという方のためにお手伝いをいたすわけです。これも潜在的にはものすごい需要でして、現在は私ども行政書士よりも、いわゆる違法業者、もぐりの業者ですね、そういった方達が跳梁跋扈してる分野です。

(13) 総合的なコンサルタント
皆さん方が行政書士になった場合に、新しく事業を起こしたいという人の相談にのってあげて資金の融資手続きもしてあげると当然喜ばれますけれども、その後は、会社が軌道にのれば、のるまえもそうですが、経理関係の仕事もございます、記帳代行と呼んでますけれども、税務署に出す書類を作る仕事ですが、税務申告書は作れませんがそれ以前の計算書類を作るという仕事は行政書士の仕事ですのでやってあげる、そして経営の相談にものってあげる、あるいはいわゆる法律上のトラブルが発生した場合に相談に応じてあげるといったことをしてあげると、総合的なコンサルタントということでお客様から喜ばれるのではないかと思います。今はそれがバラバラになっておりまして、税務関係は税理士に相談する、法律的に困ったことは弁護士事務所の門を叩く、記帳代行は経理士に頼むとかですね、てんでバラバラになっていますが、行政書士が入れば、その全部を一つの窓口でやることが出来て(ワンポイントサービスと呼んでいます)、当然会社から見ても経費がその分安く済むということです。なかなかこういった事の啓蒙活動が進んでおりませんで、浸透しておりませんけれども、皆さん方が行政書士になられた頃には一般的にこれが定着するのでないかと思います。あと、下の方に書いてあります、

(14) 破産手続き事務代行
とございますが、裁判所に出す書類を作ることを行政書士が出来るのかという問題もありましたけれども、これはあくまでも本人申請のお手伝いをするという建前で、特に行政書士が原稿作成をしてはいけないということはございませんので、あくまでも本人申請、御本人が御本人の手で作成して提出するのをお手伝いをするという形でやっております。
行政書士法の解釈としても、裁判所に出す書類を外すという、つまり裁判所を行政書士が書類を提出する役所から外すという理由はございません。これを一生懸命やっている私どもの仲間も沢山おります。

(15) 会計帳簿記帳代行
というのは、さっき申し上げました様に、例えば皆さん方のご両親でもいいですが、商売やっておられてですね、日々の領収書とか請求書とか作成はしているけれどもほったらかしだと……、ゴムバンドでとめて、あるいは封筒に入れてほったらかしだと…、月末になって帳簿をつけようと思うけれどもなかなかつけれられない、といった方は沢山いらっしゃいます。そういった方に代わって、細かいノートを作成する、金銭出納簿を作成してあげるということです。
それが帳簿記帳代行ということです。女性の方も大変多いです。毎月2万なら2万、3万なら3万という、顧問料といいますけれども、作成料と言っていいと思いますけれども、それを毎月頂きます。これを100件もっていれば毎月200万ということで、それだけ安定した所得があれば行政書士で十分やっていけるということですね。しかもお客様には喜んで頂けるということです。最後に、

(16) 福岡県行政書士会事業協同組合における基礎教育システム構想
とございますけれども、これは私どもが考えております行政書士の有るべき姿と申しますか、まだ牧歌的な雰囲気の中での理想の姿なのですが、最終的には事務弁護士を目指しているということですね。行政書士の「行政」という言葉にこだわりますと、行政訴訟くらいまではなんとか代理権をとれるのではないかなと思っておりますけれども、一般的な意味での訴訟代理権、弁護士さんと同じ様な訴訟代理権は出来ないであろうということです。従いまして、行政書士から行政法務士、そして行政の字を落としまして「法務士」、さらには「事務弁護士」となるようにしていきたいと思っているわけです。
が認められました。「契約作成」の代理というのは、弁護士法との関係でできないものですから、契約書作成の代理権という表現に落ち着いたわけですが、行政書士が相手方のところに行って相手方と直接代理人として話しが出来るということが今度法律で認められたわけです。実態としてはあまり変わらないのではないか、思うんですけれども、以前はこういう事が出来なかったわけです。ですから、ご存知のテレビドラマの「かばちたれ」の世界が一つ近づいてきたのではないか、思っております。次に

(17) ISOのこと
をお話します。ISOとは、アルファベットでアイ・エス・オーと書きます。人によってはこれを「イソ」と読む人もおりますが、通常はこれを「アイエスオー」と呼んでおります。ISOの規格認証を受けるということは、どういうことかと申しますと、例えば物を作る場合に、製造過程が国際的な規格を満たしているということです。これによって、能率の向上とか製品の品質の保証とか、そういった面で国際的な水準を満たし、安心して商品を市場に出すことが出来るということです。そういうことにつながるわけです。現在ではいろんな所でISOの認証を受けたということが話題になっております。
大きな企業では既にいろんなISOの中の、例えば建設業であればISO1400といった名前で呼ばれている規格がありますが、そういった認証を受けるためにいろんな努力をしているわけです。中小・零細企業でも、最近は、盛んにこれを取り入れようと頑張っております。行政書士会でも、各企業のISO取得を応援して仕事にしております。具体的には、各企業などお客さんのところに行って、例えば、土曜の午後とかに伺って色んな話し合いをしていくわけです。
コンサルタント業務になるわけです。毎週1回1年間行ったりしております。
具体的には、いろんな書類製造工程、いろんな事務処理工程を図表化していく、文書化していくという作業をしていくその過程で色んな話し合いのお相手をするわけです。そうすることによって、会社の無駄を無くし、いろんな工夫というものがなされていくことになります。こういうことを1年間くらい続けるわけですが、大体においてこういうことの報酬は年間に300万円から400万円です。私自身はこういったことに取り組んだことはないんですが、行政書士仲間としてはだいぶ浸透しておりまして、単に、官庁に書類を提出するといった窓口業務から、こういった業務に少しずつですが、シフトしていっているという一つの例です。

(18) 遺言書の偽造の話
それから一つ面白いエピソードをご紹介します。
それは遺言書の偽造の話です。今お見せしますこの資料は、あるおばあさんが書いたとされる遺言書です。結論を言いますと、これは偽物です。
この遺言書を貰ったことになってるのは、ある中年の夫婦です。夫婦は自分達で作って「貰った」と言っていたのだろうと思います。この遺言書が本物であることを証明するために、この夫婦は、ここにあります駐車場の契約書を遺言書の中に入れています。要するに同じ筆跡であることが言いたかったのでしょうね。
つまり、自筆遺言の場合には、その自筆という言葉から分かるように、遺言書そのものが本人の字でなくてはなりません。筆跡が同じであることが大事なことです。この遺言書がおばあさんの書いたものであると証明するために、こういった小細工をしたわけです。
公正証書遺言の場合には、こういうことをする必要はないわけです。公証人のところに行って、公証人が作って下さいますから、本人が亡くなった後も、筆跡云々ということは問題にならないわけです。よほどの事が無い限り人違いということはありませんので。
この遺言書の場合、偽造した人は、おばあさんの字に似せるために、おばあさんの字を色々集めています。買物メモとかあるいは葉書とか。そういったものを色々と集めて、下にそのおばあさんの字をもってきて、上から紙を置いて、その上からなでている。また適当に曲げたり、おばあさんの字の書き癖の左に字が曲がって行くというようなことも上手に真似ているわけです。しかし、人の字を上からなでますと、あたりまえですが、どうしても似てしまいます。この事件もあまりにも似すぎてるために墓穴を掘りました。例えば、この駐車場の契約書の名前、これと同じ字があるわけです。実際には大きさも、形も、傾きも同じということは無いですね。皆さんも、自分で字を書いてみて、それを重ねて見るとわかりますけれども。まぁ、若い方の場合は、しっかりした字を書きますから、同じ場合もあると思いますけれども、ご老人なんかの場合だと、ほとんどありません。こういった不自然さが災いし、かつ、遺言書を貰ったという本人を裁判所が尋問してみますと、どうもあやふやなことが多いということで、一審ではこれはニセモノだという判決が出ました。福岡地方裁判所の話です。で、高等裁判にいきましたけれども、この時は色々事情がありまして、和解になりました。ただ和解の第一条でこの遺言書は無効であることは認めざるをえませんでしたので、その範囲においては、一審判決と同じ効力をもつ和解が出来上がったわけです。裁判を起こした側の都合で、もう和解にしようということになりましたけれども、無効と言うことはわかっているけれども財産をあげますというだけのことですから、遺言書がニセモノであるという結論には変わりないわけです。
これは実際に、私が関係した事件なんですが、私が弁護士さんと協力してこの裁判を進めました。行政書士は直接裁判上の代理人になって色々裁判をすることは出来ませんけれども、やはり法律的知識のある行政書士という職業の人が、遺言執行者になって訴訟遂行に協力するということは、弁護士さんにとって多いに助かったはずです。行政書士が、きちんとポイント、ポイントを押さえて、弁護士があの資料が欲しい、この資料が欲しいといった時に、それを探したり、作ったりして協力するということは、一般の人が遺言執行者になるよりは、はるかに貢献したはずです。もし行政書士でない人が遺言執行者になっていれば、おそらく、この事件は負けていた。つまり遺言は有効としてまかり通り、偽造者は全財産を持っていったのではないかと思います。そういう意味では、完全犯罪を防ぐために大いに役立ったわけです。これは西日本新聞にも載りましたから、コピーをお見せします。
これからの行政書士の仕事のあり方として、他の「サムライ(士)族」と呼んでますけれども、弁護士・税理士・司法書士・土地家屋調査士・社会保険労務士……、そういう方々とスクラムを組んでやっていくことが非常に大事なことであるように
思います。これはその一つのエピソードです。

(以下、編集中です)