民法教室

まちがいやすい代襲相続の問題(其の1)

左の図で甲子さんが亡くなった。
甲子さんの財産を、C1子さん、C2子さんは相続できるだろうか

これは本当にあった話である。最近、一人暮らしの甲子さんが亡くなった。そこで甲子さんの遺産をめぐって争いが生じた。上の相続関係図を見て欲しい。本件は、甲子の母親である丙子も既に死亡し、兄弟である乙姫も死亡し、その子A太郎、B子、C次郎、D子のうちC次郎, D子も既に死亡しているといった状況下で、配偶者や子供のいない甲子が死んだ場合の甲子の財産は誰が相続するか、という事例である。この場合、民法相続編の規定によれば、(1) 先ず第一に887条は被相続人の「子」が相続人となることを規定する。しかしながら、甲子には子供がいないのでこの規定は適用されない。
(2) また890条によれば、「配偶者」は常に相続人となるとあるが、甲子は独身であったのでこれも適用がない。
(3) そこで889条を見てみると第1項で、先ず「直系尊属」が相続人となると規定しているが、本問は母親丙子が既に死亡しているので、これも適用がない。
次に「兄弟姉妹」が相続人として出てくる。本問では乙姫であるが、乙姫も既に死亡しているから乙姫にも相続権がない。問題は兄弟姉妹である乙に子供A太郎、B子、C次郎、D子が居る、もしくは居たことである。この場合889条第2項によれば、887条第2項の規定(いわゆる「代襲相続」の規定と呼んでいる)は前項第2号の場合、すなわち兄弟姉妹が相続人となる可能性があった場合に準用されることを規定している。つまり、887条第2項をこの場合に当てはめてみると、兄弟姉妹である乙姫が相続の開始以前、すなわち甲子が死ぬ前に死亡していたときには、その者の子、すなわちA太郎、B子、C次郎、D子がこれを代襲して相続人となるということになる。従って、A太郎、B子、C次郎、D子が甲子の相続人となるはずである。しかしながら、ここでC次郎、D子は既に死亡していることをどう見るか、である。このC次郎、D子が死亡しているときにC次郎の子C1子、C2子、D子の子D1子、D2子にも相続権が同じように代襲によって相続できるという考え方(「再代襲」という)もある。
しかしながら、889条第2項は887条第2項のみを準用しており、887条第3項(再代襲の規定である)は準用していない。仮に887条第3項の規定が準用される、と仮定しよう。その場合だと、本問ではこうなる。つまり、C次郎、D子が相続の開始以前、すなわち甲子の死亡以前に死亡していた場合には、その子C1子、C2子、D1子、D2子がそれぞれ相続する、という解釈になる。それであれば、A太郎、B子のみならず、子C1、C2子、D1子、D2子にも相続権があるということになるが、先に述べたようにこの887条第3項の規定は準用されていないのであるからC1子、C2子、D1子、D2子は相続権はないということになる。すなわち現在生存しているA太郎、B子のみが甲子の相続人であり、C1子、C2子には相続権はないということになる。これは昭和55年に民法改正がなされてこのような規定になった。実はこれ以前には今の問題でいくと C1子、C2子、D1子、D2子にも相続権が認められていたのであるが、必要以上に相続人の範囲を広げているというのでこのように代襲相続人の範囲を狭めたのである。この改正については法律の専門家といわれている裁判官、弁護士の中にも案外ご存知無い方がいるので、注意しなければならない。

参照条文

民法 相続編
第2章 相続人
第887条 [子・代襲相続] 被相続人の子は、相続人となる。
(2) 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは排除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
(3) 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合にこれを準用する。
第889条 [直系卑属・兄弟姉妹] 左に掲げる者は、第887条の規定によって相続人となるべき者がない場合には、左の順位に従って相続人となる。
第1 直系尊属。但し、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
第2 兄弟姉妹
(2) 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合にこれを準用する。
第890条 [配偶者] 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、前3条の規定によって相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。